大画面 TV の PC モニター化のススメ

これは mstdn.maud.io Advent Calendar 2022 18日目の記事です
昨日は するすすさん でした

今年もアドカレの季節がやってきました。例年通りであれば散財記になるはずでしたが(?)、今回は趣向を変えて今年 PC 用途で使用する大型 TV を購入するにあたり諸々調べたことを備忘録を兼ね、解説記事風にまとめてみることとします。

近年の TV と PC モニター事情

少し前までは、PC を TV に繋ぐというと、画面の大きさの割に解像度が低かったり表示に癖があったりと PC モニターが用意できないときの代用というようなイメージがありましたが、4K TV 時代に入り特に解像度面での問題が解消され、その広大な作業領域が魅力になりました。また、PC 利用に向いた機能が搭載されたり、チューナーを省き TV が見られない TV が発売されたりと機能面での TV と PC モニターの差は次第に小さくなってきています。しかし、それでも画面の大きさ以外にも細かい差はまだまだ大きく、気をつけなければいけないポイントが複数あったりします。この記事では、そんな点をおさえながら大画面 TV を PC モニターとして使うメリットやデメリット、そして豆知識について紹介していこうと思います。

大画面 TV を PC モニターとして使うメリット、デメリット

  • メリット

    1. 大画面を比較的低価格で手に入れられる
    2. そもそも PC 向けモニターとして存在しない画面サイズや有機 EL (OLED)なものなどの入手が容易である
    3. 上位機種の多くは倍速機能が搭載され、120Hzの高リフレッシュレートなモニターが比較的低価格で入手できる
    4. スマート TV 機能を内蔵したものであれば、各種配信サービスの動画等が単体で見られる
    5. 各種 HDR 規格や音声フォーマットに対応し、高画質・高音質であるものが多い
    6. PC モニターと比べ HDMI 端子数が多い
    7. 多くが ARC/eARC に対応しておりサウンドバー等との接続が容易である
    8. 家電量販店などで展示されている機種が多く、実際に見て選びやすい
    9. (チューナーレスを除き)テレビが見られる
    10. マルチモニター環境から置き換えてデスク上や配線をスッキリとさせることができる
  • デメリット

    1. 多くがグレアパネルで映り込みが起こる
    2. VA パネル搭載機が多く、その場合は視野角が狭い
    3. PC 接続を想定していない設計となっており、遅延が発生したり文字などが見にくくなる機種が一部存在する
    4. PC モニターと比べ液晶パネルの応答速度が遅いものが多い
    5. 機種によってはフリッカーレスでなく目が疲れやすいことがある
    6. ほとんどが HDMI 端子のみで DisplayPort 端子がない
    7. PC との電源連動ができないことが多い
    8. (チューナーレスを除き)某局の受信料の支払いが必要

項目の解説

  • メリット

    • 1, 2, 3
      大画面 TV を PC モニターとして使うメリットとして大きいのはこれです。例えば、27 インチクラスの PC モニターは 3 万円強しますが、43 インチ 4K TV は安いものでは 4 万円弱で購入することが可能です。また、4K で 144Hz クラスの PC モニターは 8 万円程度ですが、TV であれば同じような価格帯で 4K 43 インチ 120Hz 対応のモデルが購入できます。
      そして、大画面有機 EL パネルの機種は PC 向けではほとんど存在せず、あっても非常に高価です。しかし、OLED TV であれば選択肢が多く(ほぼすべてが同じ LG 製パネルですが…)比較的安価に購入することが可能です。

    • 4
      最近の TV はほとんどがスマート TV 機能を搭載しており、YouTube や Prime Video 等の配信サービスを単体で使用できます、そのため、わざわざ PC を立ち上げたりドングルを接続したりする必要がありません。また、Prime Video は TV では PC からだと不可能な 4K 画質でのストリーミングが利用可能、といった利点もあります。

    • 5
      BS/CS4K チューナー搭載テレビであれば HDR10/HLG 規格には必ず対応しています。また、上位機種では広色域パネルが搭載されている上、PC モニターでは搭載例が少ない Dolby Vision 等への対応も合わさり特に動画視聴での画質が高くなっています。また、PC モニター のものより高出力かつ高音質のスピーカーが搭載されており、下手なスピーカーやサウンドバーを置くよりも高音質なものも存在します。これらは動画視聴だけでなく PC 利用でも利点となります。

    • 6, 7
      PC モニターでは多くが HDMI 端子数が 2 ポート程度ですが、TV の場合は 3 ポート以上ある機種が多いです。また、PC モニターにはない ARC/eARC 対応のポートが存在し、TV からサウンドバー等への音声出力が HDMI ケーブル 1 本で行えます。そのため PC からの音声出力を TV に向けておけば、別途光デジタルケーブルなどを接続する必要がありません。

  • デメリット

    • 1, 2
      最近の TV はパット見のキレイさのためにグレアパネルを採用していますが、これは PC モニターとして使用する場合に周囲などの映り込みが問題となる場合があります。また、コントラスト比の向上やコスト面で VA パネル搭載機が多く、多くの PC モニターで採用される IPS/ADS 系パネルより視野角が劣ります。これは TV として離れた距離から見る場合はそこまで問題とはなりませんが、PC モニターとして近距離で使用する場合は端の方が見にくくなることがあります。

    • 3
      一部の低価格帯の TV では、無効化できない VA パネルの視野角改善のための処理であったり、色のディザリング処理が不適切であったりし、ベタ塗りの面がまだら模様となって表示されるような機種が存在します。また、PC モードを搭載していない機種では高画質化処理をバイパスできずに遅延が大きくマウスなどの操作が難しくなったり、パネルへの出力が YCbCr 4:2:2 などへ間引かれるため文字の輪郭がはっきりしないといったことが起こることがあります。
      最近の機種ではほぼ見かけなくなりましたが、数年前の格安 4K TV では HDMI 2.0 に対応しておらず 4K@30Hz までしか入力できなかったり、液晶パネルのサブピクセル配置が RGBW (通称偽 4K )となっており実質の解像度が落ちたりする機種が存在しました。4K@120Hz での入力時に縦の解像度が半分となる機種が存在し、問題になったこと もあります。
      また、TV 向け液晶パネルの多くは PC モニターとは逆の BGR のサブピクセル配列となっており、ごく一部のアプリなどで問題が発生することがあります。

    • 4, 5
      多くの PC モニターではパネルの応答速度が 1ms 程度ですが、液晶 TV の場合は ~10ms 程度の応答速度となっているものが多く、残像感が大きいことがあります。また、最近の PC モニターでは DC 調光を採用しフリッカーレスのものが多くなっていますが、TV ではまだほとんどが PWM 調光でありフリッカーが発生するものが多いです。

PC 用途に最適な大画面 TV の選び方

まず解像度ですが、大画面を活かすことを考えると FHD などの 4K 以上の解像度以外はおすすめできません。次に画面サイズですが、目安として 4K 43 インチクラスでスケーリングなしだと FHD 21 インチクラスの PC モニターが 4 枚並べたものとほぼ同じ領域が得られます。ただし、スケーリングなしだと細かすぎるため、個人的には 43 インチ 4K のものを Windows のスケーリング 125% で使用するのがおすすめだと思います。また、50 インチクラス以上であればスケーリングなしでも十分使用できますが、あまり大きすぎると逆に画面からの距離を大きめに取る必要があると感じました。

スマート TV 機能は重視するのであれば Android TV / Google TV 搭載機がおすすめですが、Android OS のサポート期間もあり長期間使うことを考えるとあえて独自 OS のものを選択し、あとで Fire TV などのドングル等を接続するのもありだと思います。

対応規格面では、HDR 規格は前述の通り HDR10/HLG にはほとんどの 4K TV が対応しています。PC での HDR 表示でればこれらで十分ですが、 Prime Video や Netflix を見ることが多い場合は Dolby Vision 等の上位規格に対応しているものがおすすめです。(ドングル接続または内蔵アプリでの視聴に限られますが…)また、Xbox Series X|S ユーザーであれば Dolby Vision Gaming により高画質なゲームプレイが可能です。

搭載ポート面では、最低でも HDMI 2.0 (4K@60Hz) 対応の HDMI ポートを搭載した機種を選びましょう。4K@120Hz での表示を行いたい場合は、倍速対応パネルを搭載しており、ポートは HDMI 2.1 かつ 4K@120Hz 入力対応と明記されている機種を選ぶ必要があります。(詳しくは後述)ちなみに、倍速機能と 120Hz 入力対応は別物であり、「倍速 120Hz」と書かれていてもあくまで 60Hz などの映像を 120Hz へフレーム補完して表示できるということだけで 120Hz そのものの入力には対応していない機種もあり注意が必要です。また、4K@120Hz 対応 HDMI ポートを搭載した機種では VRR (可変リフレッシュレート)に対応している場合が多く、AMD FreeSync や NVIDIA G-Sync Compatible を利用することが可能であり、PC ゲーミングでよく起こる高負荷時の一時的なフレームレートの落ち込みが発生してもカクつきを抑えることができます。さらに、一部機種ではそれら規格の認定が取られているものがあり、安定した互換性が期待できます。

各デメリットですが、これはポートと電源連動の問題以外は上手な製品選択によって回避することが可能です。しかし、これらはメーカーが公表するスペック表には載らないことが多く、実際に見てみないと分からないことも多いため中々難しいところでもあります。一部の海外でも販売されている機種では RTHINGS などといった海外レビューサイトで詳細なテストがされているので参考にするとよいでしょう。一番は実際に量販店などに出向いて、見て試してみることですね。

某局の受信料がかからないという触れ込みで今年多くの機種が発売されたチューナーレス TV ですが、安価な大画面 PC モニターとして使用するにはよい選択肢だと思います。ただし、MediaTek 製 SoC 搭載機種を選びましょう。PC 向け設定が用意されており、入力遅延も小さくなっています。Realtek オメーはダメだ ただし、現状では低価格帯の製品しか存在せず、OLED 等の高画質なパネルを搭載したり 4K@120Hz への対応などといった高性能な製品がないのが弱点です。

補足解説とおまけの豆知識

応答速度と入力(表示)遅延について

よく TV や PC モニターでいわれる応答速度や入力遅延ですが、これは似て非なるものです。

まずは、「応答速度」です。これは簡単にいえばパネル自体のある色からある色へ変わり切るまでの時間を表しています。これが短いほど残像感が少なくなり、また高リフレッシュレート表示に向いたものとなります。液晶であれば 数 ms 程度ですが、OLED であれば 1ms 未満 (!) となっています。よくスペックシートで 何 ms などとアピールされているものはこれですね。

次に「入力遅延」です。これは HDMI 端子などから入力された映像信号を内部の回路を通してパネルへ出力するまでの時間を表しています。これが大きいと PC 用途ではマウスポインターがマウスの動かし方についてこないといったことが発生するため、PC 用途ではこちらのほうが問題となりやすいです。前述の通り、一般的には TV は PC 向けモニターより入力遅延が大きいことが多く、これを設定などでどれだけ縮められるかがポイントとなります。例えば、ある機種ではすべての高画質化処理をオンにした状態だと 100ms 近い遅延が発生しますが、最短のモードを選択すると 6ms 程度まで抑えることができます。しかし、この数値は応答速度と違い公表されることが少ないため、実際に測定しているレビューサイトを参考にしたり、自身で店頭などで確認する必要があるのが難しい点です。ちなみに、120Hz 倍速駆動パネル搭載機において 60Hz の映像を入力すると 0.5 フレームの遅延が発生するといったことがあったりします (参考)。

有機 EL (OLED) TV の問題点

高コントラスト比で美麗な映像を楽しめる OLED TV ですが、焼き付き防止などの為の機能が PC モニターとして使用する場合に問題となる場合があり、PC 利用メインであると一概におすすめできないポイントがあります。

まず、スクリーンシフト機能です。これは、静止画像を表示している場合でも数ピクセルレベルで定期的に動かすことで焼き付きを抑えるものですが、PC 利用の場合は四隅が見切れるといった問題があります。これは設定からオフにすることが可能ですが、その分焼き付きのリスクを増やすことにもなります。

次に、消費電力や発熱を抑えるために全体的な輝度を抑えるための ABL (Auto Brightness Limiter) 機能や、焼き付き低減のために動いている映像のうち常時表示されている一部分の輝度を抑えるロゴ輝度抑制機能です。これらは、PC 利用の場合は表示内容や時間によって輝度が変化するといった問題が起こります。さらに、これらは設定からオフにすることができません。(ちなみに、PC 向け OLED モニターである ROG Swift OLED PG42UQ は、あらかじめ輝度を抑えることで実質的に ABL を無効化する機能が搭載されていたりします。)

また、国内で販売される OLED TV のほぼ全てに搭載される LG 製パネルについて、まず RGB+W 配列となっており(液晶のものと違い、こちらは 4K の解像度がちゃんとあります)、ある表示内容だと無いはずの色が表示されるといった問題があります。また、2021 年モデルのパネルからは解消されましたが、焼き付き防止のために必ず 1 フレームの遅延が発生するといったこともありました。

「HDMI 2.1 対応」の罠

HDMI 2.1 は、4K@120Hz 入力をはじめとして様々な新しい機能をサポートした HDMI 規格です (参考)。 しかし、HDMI 2.1 を構成する各要素のどれかをサポートしていれば HDMI 2.1 と名乗ることができるらしく(ソースは失念)、一部メーカーは 4K@60Hz までしか対応していないパネルを搭載していても、eARC や ALLM に対応したポートを持つモデルは HDMI 2.1 と表記されている機種があります。そのため、スペック表の “4K 120Hz 入力対応” の表記をよく確認することが必要です。

また、4K@120Hz 入力対応と明記されていても HDMI 2.1 のフルスペックである 4K@120Hz, 色深度 12bit RGB/YCbCr4:4:4 信号を流すために必要である 48Gbps には対応していなく 36Gbps や 40Gbps までの対応といった機種があるため注意が必要です。しかし、パネル自体が色深度 12bit にネイティブで対応した TV はほとんど存在せず、また HDR を使用する場合でも 10bit あれば足りるため、10bit RGB/YCbCr4:4:4 まで対応できる 40Gbps に対応していれば十分といえます。

eARC と Dolby Atmos

最新のオブジェクトオーディオ規格である Dolby Atmos、よくサウンドバーなどで TV から AV 機器への広帯域の音声伝送が可能な eARC (Enhanced Audio Return Channel) とともに対応がうたわれていますが、必ずしも Dolby Atmos オーディオの伝送には eARC が必要であるとは限りません。

Dolby Atmos には、Dolby Digital Plus ベースのものと、Dolby True HD ベースのものがあり、主に前者は Netflix 等の各種配信サービスで、後者は Blu-ray Disc (BDMV) で使用されています。(よく配信よりも BD の方が音質が良いと言われるのはこういった理由もあります)Dolby True HD の伝送には eARC の帯域が必要ですが、Dolby Digital Plus の伝送には従来の ARC で対応できます。そのため、動画配信サービスで Atmos 対応動画を再生する分には ARC までの対応であっても十分なのです。

ちなみに、光デジタル (S/PDIF) は 光通信のイメージとは裏腹に帯域が狭く Dolby Digital Plus ですら伝送できなかったりします(逆に同軸デジタルは True HD も可能(!))。

わたしが PC モニターとして使用している TV と導入理由

現在使用しているものは、LG 49NANO86 です。以前の記事で紹介したサブ PC のための 4K モニターを導入しようとしており、このマシンはほぼゲーム用にしか使用していなく大画面の方が良いことが導入理由です。当初は価格面でも PC 向けの 27 インチクラスのモニターとほぼ同じで、検討当時発売ラッシュであったチューナーレス 4K テレビを購入したのですが、最終的に不具合で返品することになりました。そこで当時在庫処分で特価となっていたこの機種を購入しました。2020 年モデルで型落ちであり、チューナーレス TV と比べると価格は上がりますが、 HDMI 2.1 48Gbps フルスペック対応ポート搭載で 4K@120Hz 12bit 入力が可能、そして 後継機種には存在しない 50 インチクラスで IPS パネルを搭載していたことが決め手です。使用感ですが、やはり大画面だけあって Forza Horizon 5 などのゲームをプレイすると迫力が違いますね。サブ PC はグラボが弱くフレームレートが落ち込むことも多いですが、VRR のおかげでカクつきが少ないプレイが可能になったところも良い点です。通常の PC 利用でも前述のような問題は発生せず、スケーリングなしで使用し広大な作業空間が得られています。ただ、IPS パネルの弱点であるコントラストの低さとローカルディミングが無いに等しいエッジ型バックライトによって暗い部屋での映像視聴時に黒浮きが起こるのは気になるポイントです。

まとめ

この記事では、大画面 TV を PC モニターとして使うメリットやデメリット、機種選定にあたっての注意点について取り上げてきました。TV は、同じパネルを使用していてもメーカーによって味付けが違い、画質が大きく異なることも多いです。しかし、そんな点を含めても身近な家電量販店などで実機を見て比較できるということは TV の大きな利点です。みなさんもこれらを参考にして自分にあった機種を見つけ、大画面 PC ライフを送ってみてはいかがでしょうか。

以上 mstdn.maud.io Advent Calendar 2022 18日目の記事でした
明日は りんすきさん です